本:弱い日本の強い円

弱い日本の強い円 (日経プレミアシリーズ)
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を読んだ。

著者は、上智大学卒で日本銀行に入校。調査統計局、国際局為替課、ニューヨク事務所を歴任。為替課時代は円売り介入実務も経験。2003年JPモルガン・チェース銀行入行。2011年8月現在同行マネージング・ディレクター、債権為替調査部長という経歴。

通貨ペアを見る前に通貨ごとの強弱を見るべき

一定期間の各通貨の対円相場の変動率を並べる
強い ⇔ 弱い
AUD>CAD>GBP>EUR>USD>JPY
+5% +4% +3% +2% +1%
など。この場合、円安

JPY>USD>EUR>CAD>GBP>AUD
-20% -23% -30% -35% -37%
USDJPYだけをみると、ドル安に見えるが、全体を見ると円高。

「為替相場はね、クロス円(対米ドル以外の円相場)の動きが理解できて、はじめて理解できたといえると思うよ」

日本の景気が良いと円安になる。→世界の投資家や企業が積極的にリスクを取って対外投資を活発化させるような状況で最も売られるのは、米ドルと円。
その逆のパターンでは、資本フローはお金を持っている投資家や企業が多くいる国、米ドルと円が買われる。

なぜ円という通貨は極端に動くのか
1.資金調達を受けやすく金利も低い状況。
2.日本以外の投資家や企業も調達コストが安い円を借りてリターンの高そうな国へ投資を行う。景気が下向くとこの逆の流れが起こる。
3.日本は世界第二位の経常黒字国。また、経常黒字が他国に比べて非常に大きい。この資金フローで「経常的に」円買方向に曲がれている。

為替相場の大きな流れを予測するには、その時時の資本の流れがどちらに向くかを理解することが重要、その際に誰が資本の出し手(日本、米国)で誰が受け手(高金利国、新興国等)なのかも理解する必要がある。

為替リスクを避けるために投資した債権など資産を売却する必要はない。外貨売、自国通貨買いでヘッジできる。これは、証券投資フローのデータには出てこない。

日本の貿易構造は過去10年で大きく変化している。米ドル/円相場が日本経済に与える影響は大きく変わり重要度が落ちている。最も重要なのは韓国ウォンである。

円を片側とした為替市場のシェアは20%。 米ドル/人民元のシェアは、まだ全体の0.7%しかない。

人口増減と為替相場の相関は無い。

通貨の強弱は国力ではなく、長期的には物価の上昇率によって決まる部分が大きい。物価の上昇している国の通貨は弱く。上昇していない国の通貨は強い。

購買力平価(物価上昇率)を元にした為替の動きは10年以上の長期スパンで有効で、それ以下の中期の分析では無力である。

実質実効レート:複数の為替レートを加重平均したレートという意味。実行レートの前につく「実質」は、物価の上昇率で調整した後、という意味である。

日米の物価上昇率も差がこれまで同程度で推移すると、次の米ドル/円相場のピークは124円から8%程度下がった115円程度となることが予想される。
もし、日本の物価上昇率がこれから20年間これまで同様2~3%程度売国を下回り続けるなら、米ドル/円相場は50円近辺で推移することも。

総務省の消費者物価指数を客観的にみると日本はデフレではなく、物価が安定していると見るべきでは。

1~2%のインフレを起こすために無謀な金融政策を続けてよいものか?
ある意味安定している物価を無理やり1~2%押し上げる意味は?

巨額な財政赤字を抱え、しかもなお増えているのに長期金利が上昇しないのは、インフレ率が低いから。

今の日本人の多くが「デフレ(物価安定)よりインフレがよい」と思い込まされている。

インフレ率が大きく上昇するリスクを冒すぐらいなら、年間1%程度のデフレが続いていたほうが一般の国民にとっては幸せ。
インフレ率が上昇したら、家系が保有する現金・預金の価値は目減り。
収益が伸びても賃金が伸びない現在の社会構造を考えると、インフレ率が上昇してもその分賃金が上昇する保証はない。
インフレになれば、我々の購買力は低下する。

「デフレ=悪」は強者の理論

1990年代の為替市場は貿易取引のフローが中心。2000年代は投資資金のフローの影響の方が大きくなってきた。

日米為替は、2年もの日米金利差のとの相関が強い

中央銀行が資金を大量に金融システムに投入すれば当該通貨は安くなる。ただし、それは、当該国の金利を押し下げる効果を狙ってのもの。量的緩和制作は金利を通じてはじめて為替に影響を与える。既にゼロ金利の場合、為替に影響を与えるメカニズムは無い。

円売り介入は、円を買いたがっている人に恰好なチャンスを与えるだけで、逆効果にさえなる。
1.わかりやすい動きになるので、注目が集まってしまう。→さらなる円買を引き起こし円高に
2.ボラティリティが低下(相場が安定)しポジションを大きくしやすくする→ドル売りのポジションを大きくできる
3.流動性を提供するので、そこ(クロス円市場)に需要が集まる→他通貨への乗り換えの場の提供

円売り介入でかかえたドルは、純粋な外貨準備ではない。国債で借金して円ドルキャリー・トレードをしているようなもの、しかもクーポン収入(スワップポイント)は一般会計で費消している。かかえている100兆円今日のポジションは円安が進めば含み損拡大。日米金利が逆ざやにスワップの支払いに。

最近の日経平均は円/韓国ウォンと相関が高い。対米ドルより重要に
韓国中央銀行は、韓国ウォンが上昇する局面で韓国ウォン売り介入する。日本は、米国やその他G7諸国と一緒に介入をやめさせるのがよいのでは。

「中央銀行がやっている仕事は我々の財布の中に入っている紙切れの価値を維持することである。「国の経済のために中央銀行もバランスシートを汚せ」と言うのは、それが「国の経済のためなら、自分の財布の中に入っている紙幣の価値など暴落してもよい」と言っているのと同じである。自分の財布に入っている紙幣の価値が暴落すれば、結局はそれが国の経済にとって、最悪の事態になる。

「こうした異常な金融政策を続けていると、いずれは悪性のインフレになるリスクがある。
ゼロ金利政策や量的緩和政策は中央銀行の周囲(政治家、マスコミ、世論)が中毒になってしまっているので、やめるにやめられなくなっている。
こうした異常な政策はいつかは終わる。しかし、中央銀行の周辺が中毒になっているため、おそらく中央銀行が適切なタイミングで終了させることはできないであろう。様々な中毒症状と同じように、どこかで強制的に終了させることになるであろう。
その強制的な終了は、インフレという形でやってくる」

「悪性のインフレは需要増で起きるのではない。通貨の信認が失われた時に起きる。
金価格の急騰は、その警告ではないだろうか」

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